芥川龍之介の小説『地獄変』の出典となっている『宇治拾遺物語』(絵仏師良秀)について、その読解ポイントとなるところを、少しずつ紹介します。
[本文]家の隣より火出で来て風おしおほひてせめてければ、逃げ出でて大路へ出でにけり。
[品詞分解]家 の 隣 より 火 出で来 て 風 おしおほひ て せめ て けれ ば、逃げ出で て 大路 へ 出で に けり。
【現代語訳】家の隣から火が出てきて、風が(吹き、建物を)おおって(火が)迫ってきたので、(絵仏師の良秀は建物から)逃げ出して大通りへ出できたのであった。
ポイント
より
:(格助詞)〜から(起点) ※注意「比較」ではない。
出で来
:連語でカ変動詞「来(く)」と同じ活用。なので基本形は「いでく」と読む。
本文では接続助詞「て」と結びついて「連用形」に活用し、本文中での読み方は「いでき(て)」となる。
せめ
:基本形「せむ(迫む)」。活用は「め/め/む/むる/むれ/めよ」とマ行・下二段活用であることに注意。
本文では接続助詞「て」と結びついて「連用形」に活用している。
※注意 まずいないとは思うが、決して「せ/む」と無理やり品詞分解(サ変動詞「す」未然形+推量(意志)「む」已然形)することのないこと。
けれ ば
:過去の助動詞「けり」已然形+接続助詞「ば」、なので確定条件。
現代語訳は「〜たので」 ※注意 決して「〜けったら」という意味ではない。
逃げ出で
:連語で「出づ」と同じ活用。なので基本形は「にげいづ」と読む。活用は「で/で/づ/づる/づれ/でよ」とダ行・下二段活用であることに注意。
本文では接続助詞「て」と結びついて「連用形」に活用し、本文中での読み方は「にげいで(て)」となる。 ※注意 決して「にげでて」とは読まない。
出で に けり
:まずは「いでにけり」と読むことに注意。
ここでの「に」の正体は、完了の助動詞「ぬ」の連用形である。
理由は、あとに続く過去の助動詞「けり」が、上に活用する語が来る場合「連用形」に活用させて「接続する」という性質があるから。
ちなみに、完了の助動詞「ぬ」は「な/に/ぬ/ぬる/ぬれ/ね」と、ナ変と同じ活用をする。
また、「に けり」は全体で「過去完了」となり、現代語訳は「〜したのであった」と訳すと微妙なニュアンスが伝わりやすくなる。
(以下、続く)
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